NHKの特集『ワーキング・プア 働く貧困層』の中で、一番印象に残ったのが、岩井拓也さん(仮名・35歳)だ。
彼の両親の離婚で家族がばらばらになり、学生の頃から一人で生活していかなければならなかくなった。学校を卒業する時も、就職試験に着ていく服がなく、面接を受けられなかった。このVTRの中では、雑誌を一冊拾うことが出来ると、「あぁ、良かった。これで400円になる。今日はゆっくり出来る。」ととても嬉しそうな表情を浮かべ、カップ焼きそばを食べていた。精神が荒廃している様子は表情から微塵も伺えないようなお人柄なのに、「生まれてこなければ良かった」と彼は言う。彼の素朴で屈託ない雰囲気と、曇りのない明るい表情に、返って胸を締め付けられる。


今日放送していた、特集三回目の「ワーキング・プア 解決への道」の中で、彼は、三鷹の清掃員の職を得ていた。日当7千円で、月10日仕事に就くことが出来、月7万円の収入を得られる。仕事振りも私のように大欠伸をしながらやるのではない。真剣そのものだ。 以前は1日一食しか食べられない日もあったのに、今は、ご飯を食べにお店へ入ることが出来、炊き立てのご飯を食べることが出来るようになった。それでも、月7万円では、住居を構えることが出来ず、「おやすみなさい」と高架下に帰って行く。
インタビュアーの「以前『生まれてこなければ良かった』と言っていましたが、もうそうは思わないですか?」という問いに対して、「それは今も変わらない」と言って自分に頷き、その後うつむいて長い間言葉を詰まらせていた。下を向いたまま、涙を流した。暫くしてから、「前の自分だったら、絶対に泣かなかった。」「前よりも人を信用できるようになったと思う」と言って、また言葉を詰まらせ涙が止まらない様子だった。
暫く経ってから、「自分と同じような人の気持ちが良く分かるから、手助けしたい。一人でも多くね。」と言った。


親に食べさせてもらって平気な顔をしている人もいるのに、ゴミを漁ってでも一人で生きていこうとする彼の方がどれほど人間らしいだろうと思った。彼の明るくて優しい表情が忘れられない。