いのちの食べ方



私の生涯の1本と言っても過言ではない映画だった。この映画を世界中の人に見て欲しい。

いつもなら映画くらい一人で行けるのだが、この映画の予告編を見ただけで、卒倒しそうだった私は、どうも一人で行く気がしなかった。けれど、どうしても見ておきたいので、頑丈そうなお友達に付き合ってもらうことにした。


涙なしに見ることが出来ない、衝撃的な現実。一人で行かずに良かったと思う。

食の喜びを得る為に肉を食べることは必要不可欠なことだけれど、尋常でない量を、尋常でないほど安く売る為に、尋常でないスピードで、尋常でない量の肉を作っているような気がして、とても切なかった。
私は、肉は滅多に食べないのだが、恥ずかしいことには、皮革製品に目がないのだ。バッグでも、靴でも、ドレスでも、何でも、皮革素材に魅かれてしまう。毛皮やファーはトレンドにはなくてはならないものと思っていたし、近年皮革製品は嘘みたいに安価で手に入るので嬉々としていたけれど、自分が着飾る喜びを得るだけの為に、こんな現実があることは想像は出来たけれど、想像以上に衝撃的なことだった。
ファッションでも、音楽でも、食でも、有難みを感じながら楽しめる速度があり、その速度は、今よりももう少しゆっくりの方が、よりよく味わえる気がするのだ。
自転車がパンクした時、自転車を押しながら歩いて帰らなければならない羽目になって、いやいや歩き始めると、「この速度だ!」って、私は思ってしまうのだけれど、人間が人間らしく何か感じる余地のある速度って、人の"歩く"速度なのだと思う。
尋常でない量産速度の為、命が物としてしか扱われていないことが、私にとっては想像以上にショックで受け入れ難いことだったのだが、命がかけがえのない命として私達の命を生かす為、私達の体の中にゆっくりと入っていくなら、それは自然なことだと思うし、これ以上ない程ありがたいことだと思う。でも、気飾るのは程々にしたい。。。
小中学生にはまだ無理かもしれないが、日本中の高校生には、授業で取り扱って欲しい教材だとも思った。


これはあくまでも私の意見で、監督はただ淡々と、命が食べ物に変わっていく過程の、その作業の様子を映し出すのみである。

怖いもの見たさではなくて、前向きな気持ちで全世界の人に見てもらいたい映画史上もっとも貴重な作品だと思う。全ての映像を直視することが出来なくとも、自分がどうして今日も生きていられるのかが分かり、今日から、世界が全く違って輝いて見えると思うから。




想像はしていたけれどそれ以上に大きな衝撃を受けた私達は、言葉少なく、しかし、晩ご飯は何にするかを考える余裕をまだ保ちながら、表参道の方へ。

晩ご飯は、迷った挙句、ホッケの定食にした。二人とも、いつものように迷うことなく、ご飯は大盛りにしてもらう。一粒残らず頂き、そのあとには、二人そろって、イタリアンジェラートのダブルも残らず平らげる。格別に美味しく感じた夜だった。





■ いのちの食べ方 OUR DAILY BREAD  ★★★★★★★

ニコラウス・ゲイハルター監督作品
2005年 / ドイツ /90分 / ドキュメンタリー映画 

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シアター・イメージフォーラム